J.ゲール、北原理雄訳『屋外空間の生活とデザイン』
第三部 集空か分散か−都市計画と敷地計画
集空か分散か−都市計画と敷地計画

集中か分散か

計画を進めてゆくなかで、
集中を目指すべきか分散を目指すべきか、判断を迫られる場面がでてくる。状況次第で、どちらも同様に妥当な目標になりうるのである。

これまで、集中の問題を重視してきたが、そうすべきでない場合もたくさんある。都市活動は、都市のもっと広い地域に配分したほうが良いかも知れない。
活気ある空間だけでなく、穏やかで静かな空間も必要であろう。


人と出来事の集中

集中させる必要があるのは建物ではなく、人と出来事である
人間の尺度に合わせて設計することが大切である。ある場所から、徒歩でどこまで行くことができるのか。どれだけのものを見たり、体験することができるのか。

建築密度が高いからといって、活動の集中が見られるとは限らない。反対に、通りに面して両側に家並みが続いているだけの村の通りで、いつも活動が集中していることがある。歩行者路と屋外活動の場所に対して、建物がどのような位置を占め、玄関がどちらを向いているか、それによって、結びつきが大きく左右される。


大規模、中規模、小規模

市計画や地域計画のような大きな規模での決定、敷地計画のような中規模での決定、そして小さな規模での決定。これらは密接に結び付いている。第一の計画段階で下される決定を通じて、公共空間がきちんと役立ち、良く利用されるための前提条件をつくり出すことができなければ、小さな規模で有効な計画を進めるのは難しい。私達が、各計画段階で下された決定の結果に直面し、それを評価することができるのは、いつでも小さな規模、つまり身近な環境の場においてである。したがって、この相互関係は重要な意味を持っている。街や住宅団地の質を高めるには、身近な小さな規模で成果を勝ち取らなければならない。しかし、この段階で成功をおさめるためには、すべての計画段階で準備を整える必要がある。


集中か分散か−大きな規模で

分散:例えば都市計画では、自動車を主な交通手段にし、機能を分離した都市構造をつくり、住宅、公共サービス、工業、商業機能を大きな地域ごとに分離して配置すれば、人と出来事を効率良く分散できる(人と出来事の分散は、世界中のほとんどすべての郊外住宅地に共通してみられる現象である)。

集中:人と出来事がいつもはっきりしたパターンをとって集中している都市構造。そこでは、
公共空間(街路と広場)が街の最も重要な要素になっており、あらゆる機能が街路に面して有効に配置されている。


集中か分散か−中程度の規模で

分散:建物を互いに遠く離して配置し、玄関が向かい合わないようにすれば、人と活動を分散させられる。一戸建て住宅地や機能主義的団地では、歩道と通路がひどく長く、空き地が必要以上に大きくなり、その結果、屋外活動がまばらになっている。
集中:公共空間のシステムができるだけ緊密になるように、また、歩行者の移動距離と距離感ができるだけ短くなるように設計すれば、人と活動を集中させられる。そのもっとも簡潔で見事なかたちは、すべての建物がひとつの広場のまわりに集中しているような小さな街である。
図版上/サンビットリーノ・ロマーノの俯瞰写真と平面図
図版中及び下/テルツの町並みと平面図
街路の街

一本の街路のまわりに建てられた街
例)ゴールドソクラ
住宅、玄関、学校、公共の建物、商店、オフィスなどがすべて、ガラス屋根で覆われた一本の街路沿いに集められている。
街路と広場の都市

大きな住宅地には、もっと多くの
街路と広場が必要であり、古い街のように、大通り、横町、中央広場、地区広場などを含み、構造にも分化が生じてくる。

ヲ人間の居住の歴史を通じて、街路と広場はいつもそれを中心に都市がつくられる基本要素だった。歴史を振り返ると、街路と広場は、多くの人々にとって「都市」という現象の本質そのものであったことがわかる。
←コープ住宅団地:
コミュニティ生活の重視が、住宅団地の配置計画に反映されている。      
集中か分散か−小さな規模で

一人の人間の行動半径には限界があり、近く範囲も限られているので、わずかな長さの街路や建物の外観、
ほんの小さな空間のデザインが、このうえない重要性を持っている


集中か分散か−空間面で

必要以上に大きな空間は、活動を分散してしまう。街路と広場を設計する際は、その空間の大きさを利用する人達の感覚と数に合わせることが大切である。
例えば、ベネツィアの街路は、平均3m強の幅を持つ。この寸法だと、一分間に40〜50人の歩行者がゆったり通行できる。
現代都市の多くの空間は大きすぎることが多い。それは、まるで計画家が小さな寸法と空間を正しく扱う自身がないので、迷ったときには、万一に備えて余分な空間を挿入する癖を持っているかのようである。迷ったときには、少し空間を削りなさい
↑幅4mの通路(50〜60人/分の通行量を持つ)。これ以上の空間が必要なことは滅多にない。
大きな空間のなかの小さな空間

高い建物に囲まれた小さな空間は、一方で日の当たらない空間を意味する。北ヨーロッパのように日照が貴重な地域では、日陰と柔らかな光が快適な南の地域とは異なる対応が必要となってくる。
採光と日照に対する要求と、人々が集まり易い程良い大きさの空間を両立させることは可能である。建物を階段状にする、大きな空間のなかに小さな空間をつくる、などの方法によってである。
←デンマーク、ネスレンビュの街路:10m幅の街路の規模を小さくするために、建物の前に連続した低い飾り屋根を取り付けた。
集中か分散か−都市の街路で

都心の街路で活動を分散させず、集中させようとするならば、大きな建物、商社、銀行、オフィスは、
入口だけを公共の場所に面して開くようにすべきである。
生き生きとした都市の街路沿いには小さな構成単位が並び、その背後や上に大きな単位が置かれている。街路に面した空間を占めるのは、様々な機能の入口と人々の興味を引く活動だけである。
この原則は、例えば映画館に見ることができる。そこでは、街路に面したところには入場券売り場と広告を掲げた入口だけがあり、劇場の本体は後ろや上に隠されている。都心の街路に銀行やオフィスを配置しなければならないときには、この解決法を手本にすべきである。
※街路沿いの建物が生気のない退屈なものになるのを防ぐため、デンマークの15の都市では、街路に面した一階に銀行とオフィスをつくることを規制している。また、別の都市では、間口が五m以下の場合のみ認めることにして大きな成果を挙げている。
ショッピングモールでは、街路に面した個々の間口をできるだけ狭くする。
歩行者は、長い距離を歩きたがらない。設計者は街路の長さをできるだけ抑えながら、そこにできるだけ多くの店を収容するために、間口を狭くする。
敷地の間口を狭く、奥行きを深くし、街路に面した空間を注意深く利用すべきである。この原則は住宅地にも当てはまる。


高低差

同じ高さで行なわれている活動が感覚器感の及ぶ限り体験可能であるのに対し、また、活動の間を容易に動きまわれるのに対し、少し高いところで何かが起こっていると、それだけで、その出来事を体験する可能性が大幅に低くなる。低いところで出来事がある場合には、高いところから見渡すことができるが、参加と交流を行なうのは難しい。

・ウィリアム・H・ホワイトがNY市で行なった研究
視線が大切である。見えない空間は使われない。
余程強い理由がなければ、オープンスペースを掘り下げるべきではない。二、三の注目すべい例外を除いて、掘り下げられた広場は活気のない空間になっている。」

・密度の高い街路網をつくらず、地下街や空中歩廊など、通路を幾層にも重ねて、同じような通路をたくさんつくると、人と出来事が分散され、好ましくない結果を招く。
空中歩廊は都心にも住宅地にもつくられているが、一般にどちらの場合も疑問の多い手法である


統合か隔離か

公共空間のなかや周辺で様々な活動と機能を統合すれば、それに参加する人達は一緒に行動し、互いに刺激と活気を与え合うことができる。
重要なのは、図面の上で工場、住宅、サービス機能などを密集させて描くことではない。
別々の建物に働き住んでいる人々が、同じ公共空間を使い、日常活動のなかで出会うことができるかどうかである。

異なる機能の分離を目指した機能主義の都市構造においては、
均一なグループが暮らす大きな住宅地、工場地帯、研究所団地、大学都市、高齢者村などに分けられ、単一のグループ単一の職業単一の社会集団年令集団が、程度の差はあれ、社会の他のグループから孤立している。
 長所:同一機能間の距離短縮。効率の上昇。
 短所:周辺社会とのふれあいの減少。貧困で単調な環境。

もっと緻密な視点を持った計画方針を


統合−大きな規模で

大きな規模では、互いに対立したり妨げになったりしない機能は、すべて混合する方針を貫ける。統合型の都市計画では、都市を機能に分割するのではなく、成長の方向や拡張すべき地区について、その時期を定める。
住宅地域、工業地域、公共サービス地域、などと指定する代わりに、1990〜1995年、1995〜2000年に成長すべき地域を指定するのである


都市は大学である−そして大学は都市である

統合型の都市では、
大きな機能をたくさんの小さな単位に分解し、それを街の文脈のなかにはめ込むこともできる。
コペンハーゲン大学は、いまでも旧市街地の中央にあり、本部の建物を中心に、大学院、学部、学科が、増設の度に敷地を求めながら、50ケ所以上に分散して街中に広がっている。都市の街路は大学の一部であり、廊下の役目を果たしている。
大学が分散していると、
運営組織の面では明らかに不利な点がある。しかし、関係者にとっては、街との身近な接触が、街を利用し、そのアクティビティに参加する無数の可能性を生み出している。また、街にとっては、大学の存在が、活力と生活と活動の面で貴重な役割を果たす。

これと正反対なのが「合理的」に計画された大学キャンパスである。
この種の計画の下では、教育が体系化され、学科間の連絡路も合理的に組織されている。しかし、その「街」には、
多くの活動を生み出す基盤がない。食堂と売店しかなく、それを利用するのも学生と教職員だけである。
かような一面的で細分化された環境の下では、学習環境と一般社会との日常の結びつきが断ち切られている。一面的で細分化された専門技術者を養成するには、またとない条件と言えるかもしれない。


統合−小さな規模で

色々な種類の人と活動を統合するには、ひとつの機能だけで地区を構成してはならない。

住宅地のなかに学校をおいても、柵や塀、芝生で隔離すれば、まわりとの関係が断ち切られてしまう。それに対して、例えば、街路に沿って教室を配置すれば、街路は廊下や遊び場の役目を果たすだろう。広場の喫茶店は、学校の食堂を兼ねるだろう。

こうして、街が教育の一翼を担うようになる


交通の統合と隔離

交通は、公共領域における活動のなかで、最も幅広い内容を含んでいる。

交通が歩行者と自動車に分かれている普通の街路では、人と活動が著しく拡散し、分離されている。

街路体系の機能分化を進める代わりに
、車と他の高速交通手段の使い方を変えることが考えられる。たとえば、公共輸送と歩行者と自転車の体系を組み合わせた交通網をつくり、個人の移動の主力を、車からこの交通網に切り換えることができる。

高速から低速の交通への切り替えは、通常(自動車利用の場合)玄関先で行なわれているが、近ごろのヨーロッパの新しい住宅地では、街の境界や住宅地の外れで車を降り、最後の50〜150mを歩いて家に戻るのが普通になってきている。


次善の策−歩行者を中心にした地区内交通の統合

地区内の自動車交通を歩行者と共存させようとする試みも、有望な展開のひとつである。
この原則はオランダで最初に採用され、低速の自動車交通に合わせて地区の設計がなされた。これらの地区はボンエルフ(生活の庭)と呼ばれている。そこでは、
玄関先まで車を乗り入れることができるが、街路ははっきり歩行者の場所とされており、車は、屋外生活と遊びのために確保されたスペースを縫ってゆっくり進む。車は、歩行者の領域への外来者である(交通の速度は、低い凹凸や障害物によって抑えられている)。


交通と屋外生活の統合

交通と屋外での活動を統合すれば、移動中の人達、遊んでいる子供達、家のまわりの活動に参加している人達のそれぞれの活動が、互いにもり立て、刺激を与え合うようになるだろう。


誘引か拒絶か

公的環境が人を引き付けるか拒絶するかは、
公的環境と私的環境の関係と境界ゾーンのデザインによって決まる。

高層住宅のように、まったく私的な領域と、階段、エレベーター、街路などの公的な領域が明確に区切られていると、必要があるとき以外、公的環境に出なくなる。

境界に移行ゾーンがあると、物理的にも心理的にも、住人と活動が私的空間と公的空間の間を行き来し易くなる。


誘引

@
何が起こっているか見ることができること
見ることができれば、参加したいという気持ちが生まれる(これはなにも子供だけに限らない)。
A
短く楽な経路
人を引き付けるには、私的環境と公的環境を結ぶ経路が、短く楽なものでなければならない。
B
動機の転換−目的を持った外出が口実になる
大人が、刺激やふれあいの欲求を満たすだけの理由で街に出かけることは滅多にない。本当の目的がどうあれ、買い物をする、散歩をする、新鮮な空気を吸う、など、最もらしい筋の通った理由で外出する。
自宅で働いている人は、外で働いている人に比べ、平均三倍近い時間を買い物に費やしている。一週間に一度だけの買い物ですむのに、週に幾度も買い物に出る人がいる。このことは、毎日の買い物の多くが単なる買い物ではないことを物語る。
一般に、基本的な肉体上の欲求と心理上の欲求は同時に満たされることが多い。そして、実際には双方の欲求を合わせて満たしているときでも、基本的で定義し易い欲求だけが説明に使われたり、直接に意識される動機になることが多い
例えば、住宅地の路地清掃、雪掻きなど、何かすることがあれば、その後に何か語り合うことがあるだろう。
必要活動、任意活動、社会活動は、無数の微妙な糸で結ばれている


誘引−行き先

動機が複雑にからみ合っているので、公的環境には、外出のはっきりした動機や誘引になる物と場所が必要である。
見晴し場所、商店、コミュニティ・センター、スポーツ施設など、−古くは共同の井戸と洗濯場、−南ヨーロッパでは居酒屋が目的地として重要である。人々は、そこに行けば必ず友人に会えることを知っている。


誘引−活動の対象

天候が良く快適なときには、庭が有意義な活動を提供する。庭が人々の通り道のそばにあり、そこから他の活動が良く見えれば、庭仕事は、他のレクリエーション活動や社会活動と結び付くだろう。
前庭での活動を調べた研究が明らかにした、多くの人々が園芸の目的だけに必要な時間に比べ、かなり長い時間を庭仕事に費やしている、という事実は注目に値する。
住宅地の公共空間には、歩き、腰掛ける機会だけでなく、行動する機会、行動の対象、参加する活動が必要である。日常の家事と生活を公共空間に持ち出せるようにするとなお良い

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