W.カーティス著、沢村明他訳
「近代建築の系譜−1900年以降 上巻」、鹿島出版会、1990年
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第一章
第一章 十九世紀における近代建築思想

「十二世紀ないし十三世紀の建築家が我々の時代に蘇ったとしよう。そして彼がこの近代思想の中に仲間入りしようとしたならば。仮に近代工業の才芸を存分に使いこなせたとしても、フィリップ二世王やルイ九世王の時代の大建築を作ることはないだろう。というのも、これは
芸術の規則第一条違反だからである。つまり、時代の習慣や要求に順応すること、という決まりに、である。」(E・ヴィオレ=ル=デュック、1863年)

「近代」建築という観念は18世紀末の諸発展に根差し、とりわけ
進化という考えの強調であった。
この着想の基礎となっていた歴史観とは、
進歩主義歴史観である。
「様々な「時代」は、それぞれの文化的事象の中に直接明言されているような精神的核を持っていて、それらの時代を通り抜けて歴史は前進していく」

真の表現を成し遂げるにはリバイバルでは駄目なはず
 ↓
運命は「その時代の」真なる様式を求めるのであり、しかもそれは過去のものとは似ていてはならず、かつ疑う余地なく必然的に見えて欲しい
But
この「同時代的」様式の形とやらは、一体どうやったら見つかるのだろうか?

近代の進歩的理念創成に繋がるもの
・ルネサンスという伝統への信頼とそれを支えていた理論の喪失
産業革命→新しい、建築手法、解決、パトロン、建築課題の発生
       →新しい形態の提示へ
           ↓
近代建築という考えは、それに先立つ社会的技術的領域での変化から切っても切り離せない。建築様式の問題は孤立して存在しているのではなく、より深い思想の流れに関連しているのであり、その思想とは過去の様式の模倣やごたまぜではなく、同時代を純正に表現するような形態創造の可能性に関わるものである。…「近代建築」の最初の理論家達が直面した状況、課題


「折衷主義」
昔の様式の数々の最良の特徴を集め、それらを新しく統合することによって、様式を一つつくり上げられるはず。
But
折衷主義は再結合についてどんな規則も供し得ず、また、歴史的要素の単なる異様な烏合と本物の統合との本質的違いを提示できなかった。 

洗練された建築の永続する質とは、いつの世にも、様式という衣装の上辺だけの結論を超えて特性にこそ負っている」、ということが忘れられがちであった。
→19cには、単純な様式別に分類できないような名作がいくつもあった
ex)アンリ・ラブルスト:サント・ジュヌヴィエ−ヴ図書館
            中身とフォルムとが桁外れの深遠さで統合された賜物
ラブルストをはじめとする19cの才人達(カール・フリードリヒ・シンケル、ヘンリー・ホブソン・リチャードソン他)は、
過去の様式の原理を探究しえたのであり、そうした先達の努力を単におうむ返ししていたのではない。彼等はそれらを彼等自身の本当の持ち札へと翻訳し、自分の成果として、驚く程想像力豊かな統合を成し遂げた。
こうした離れ業が出来た理由の一つは、彼等が、自分達の時代の社会状況に、なにが一番適しているかについて、直感的な理念を抱いていたからである。


「合理主義」
最良の形態は機能的ないし構造的要求に根差す。
美しくて適当な形態は、その課題を先例というフィルターを通さずとも、それ自体の価値や長所を分析しさえすれば、自動的に出来上がってくるはず。

機能分析さえあれば先立つイメージが介在しなくても形態は出来上がるという考えなど、
多くの誤謬を含んでいる

19cにおける「合理主義」継承者の一人、ウジェーヌ・ヴィオレ=ル=デュックは、19cが自己の様式を見出せずにいることに対し、設計課題に対する真実と、建設方法に対する真実である形態の形成にこそ、その答えがあるに違いないと考えた。
また、
新しい様式を発見するのに過去が有用だと信じていた。
歴史はその外面的効果のためにではなく、その基礎にある原理と成り立ちのために紐解くべき

彼の理念は生き続け、近代建築のパイオニア世代に巨大な影響を与えた


依然として残る疑問
 近代建築はどのように見えるべきか?
 その形態はどこから由来すべきか?
明らかに伝統は放棄されていたし、その他にはフォルムなど全然なかった。

まったく新しい建築という考えは単なる幻想に過ぎない。

まったく新しい結合を達成できるような手法を作れば、それによって過去の建築の
本質的な教えを抽象化できるかも知れない。

抽象的建築史観…過去の建物についてその円柱やアーチの使い方よりもむしろ、フォルムというもののプロポーション、アレンジ、アーティキュレーション(分節)というものにその重要な特色があるのだという考え方

*実際、近代建築の発展性ある作品を吟味すれば、この広い意味合いで、それらが伝統に頼っていることが分かる。
「ル・コルビュジェ、ミース・ファン・デル・ローエといった人々が、建築それ自体というメディアの核となる抽象的価値を、いわば発掘した、その大胆さには驚かされよう。また、
彼等が作り上げたのは新しい様式というよりも、普遍的な、様式の資質であり、歴史上傑出した作品すべての中枢にあるであるということにも。」

「投げ捨てられたのは伝統ではなく、
卑屈で表面的で見当違いな過去への執着であった。」
材料は豊富だった。問題は、それらの材料を近代状況に適当な新しい総合体へと、どうやって鍛え直すのかであった。」
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